第12回HECTEF WEB セミナー
改めて腸内細菌を詳しく知ろう
~プログラム~
2024年2月14日(水)
総合司会 柴田 綾子(一般社団法人 HECTEF)
15:00~15:10 開会の挨拶 櫻林 郁之介(一般社団法人 HECTEF)
15:10~16:10 講演1
座長:櫻林 郁之介(一般社団法人 HECTEF)
「腸内細菌叢の検査から得る既知と未知:腸内細菌叢を健康に活かすには」
講師:井上 亮 先生
(摂南大学 農学部応用生物学科動物機能科学研究室 教授 )
16:10~16:20 休憩
16:20~17:20 講演2
座長:櫻林 郁之介(一般社団法人 HECTEF)
「腸内細菌がもたらす腎不全の病態」
講師:脇野 修 先生
(徳島大学大学院医歯薬学研究室 腎臓内科学分野 教授 )
17:20~17:30 閉会の挨拶 伊藤 昭三(一般社団法人 HECTEF)
第12回
HECTEF WEB セミナー抄録
腸内細菌叢の検査から得る既知と未知:腸内細菌叢を健康に活かすには
摂南大学農学部動物機能科学研究室
井上亮
腸内細菌叢とは我々の腸、特に大腸に棲息する細菌の集合体であり、これを形成する細菌は、種類にして1,000種以上、数にして1兆個以上にのぼるといわれている。これらの細菌は個々に活動しているわけではなく、互いに連動し複雑な代謝を行っている。そのため、腸内細菌叢の機能は単一の腸内細菌の多少だけでなく、「生態系」として全体を把握して考える必要がある。
腸内細菌叢の研究が急激に活発化したのは2010年頃からであり、解析技術の進歩に加え、「腸以外の病気への関与」が明らかになったことがその大きな理由である。研究の活発化に伴い様々な知見が蓄積されると、腸内細菌叢が我々の健康を考えるうえで極めて重要なピースであることがわかってきた。現在では、腸内細菌叢研究は単に「知る」時代から、「活かす」時代に移行し始めている。
腸内細菌叢は個人で異なると言われるように非常に多様性に富む。そのため、腸内細菌叢を活かす方法も一様ではない。腸内細菌叢を活かす第一歩は個々人の腸内細菌叢の特徴を掴むことだが、このための検査サービスが既に複数社から提供されている。本講演では腸内細菌叢の検査から得られる既知と未知を整理し、我々の提案する「日本人のエンテロタイプ」を使って腸内細菌叢を健康に活かす方法についても概説する。
腸内細菌がもたらす腎不全の病態
徳島大学大学院医歯薬学研究室 腎臓内科学分野
脇野 修
近年、腎臓―腸連関(腎腸連関)が注目されている。例えば、腸管ホルモンの一部が腎臓に受容体が存在し腎機能の維持に貢献していることが報告されている。腸管由来の尿毒素の吸収が腎機能に影響を与えることも知られている。また、逆の連関として慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)において腸管遺伝子の発現は変化し、そして腸内細菌層も変化する(dysbiosis)ことが明らかにされている。腎不全において腸内細菌Lactobacillusなどの炭水化物を分解する菌は減少し、その一方でタンパク質を分解する菌が増える。その結果、腸管バリア機能が低下し、インドール等の尿毒素の産生が亢進し、その体内への侵入が増加し、腎機能低下に寄与する。我々の検討ではLactobacillus補充のprobioticsは 腎不全進展を抑制する可能性を有する。また尿毒素の吸着薬、活性炭吸着薬やSGLT2阻害薬は腸管環境の悪化を改善し、Lactobacillusを回復させ、尿毒素の血中レベルは低下し、腎機能改善につながると考えられる。こうした腎不全の病態の一部はdysbiosisによって引き起こされていることが考えられ、無菌動物の研究で明らかにされている。しかしながら、腸内細菌を利用したprobioticsや腸内細菌の発育を促進させるprebioticsの有効性は尿毒素や代謝パラ メータに限られており、腎機能の改善にまでつながっていない。今後有効なprobioticsのプロトコールの確立 やuremic dysbiosisの根本的な原因の解明が急がれる。
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